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小さな政府は小さな心

2005年11月21日

宇佐美 保


 先の拙文《変人達の論理破綻》に於いて、小泉首相の目指す小さな政府とは、政治家、官僚の人数削減が第一目標に掲げられているとして記述しました。

 

 しかし、関岡英之氏(ノンフィクション作家)の記述(文芸春秋2005.12号「奪われる日本」)を読み驚かされます。

そこには、次のように記されています。

 

 郵政民営化法案が成立した今、事情を知る者は次なる主戦場を凝視している。それは公務員数切削減でも、政府系金融機関の統廃合でもない。それらは真の葛藤から国民の注意をそらす当て馬に過ぎないのだ。この国には米国の手垢にまみれていない、もうひとつの官営保険が存在することを忘れてはならない。それは健康保険である。国民生活に与える衝撃は、簡易保険の比ではない。「民にできることは民にやらせろ」という主張がまかり通れば、健康保険も例外ではいられない。既に第三分野(医療・疾病・障害保険)は外資系保険会社にとって、日本の保険市場を席巻する橋頭堡になっている。

・・・

 

 更には、次のようにも書かれています。

 

「官から民へ資金を流せ」、「民にできることは民にやらせろ」というときの「民」は、日本国民の「民」、ではない。日本社会の行く末に責任を負わない米国民間保険会社の「民」にほかならないのである

・・・

 

 成る程!小泉首相は、“日本の会社に米国資本がどんどん入ってきていますが!?”との記者の質問に対して、

“米国資本が日本の会社に入って何故悪いのですか?!”

と尻をまくっていました。

 

 又、関岡英之氏の記述を抜粋させて頂きます。

 

 数年後の日本はどうなっているか。どんな分野で規制が緩和され、新たなビジネス・チャンスがうまれるのか。どの法律や制度が、どう改正されるのか。経営の中長期計画や、株式の投資戦略などを検討する際、必読の文献が世にある。

年次改革要望書』という外交文書がそれで、一九九三年の宮澤・クリントン日米首脳会談で合意されて以来、日米両国政府が相互に提出しあってきたものだ。過去十年間、日本で進められてきた「改革」のかなりの部分が、日本政府への米国政府の『年次改革要望書』の要求を忠実に反映したものだ。今年国会で成立した新会社法しかり、改正独禁法しかり。そして郵政民営化法もまたしかりである。その歴然たる従属ぶりは、「恒常化された内政干渉」とでも表現するほかはない、主権国家として尋常ならざるものだ。

・・

 

 このような日本の政治情勢のもとで、小泉靖国参拝に対して、中国韓国から非難の声が上がると、“内政干渉だ!”と怒る小泉氏、の精神構造はどうなっているのでしょうか?

その上、

日米関係が良ければ
中韓はじめ世界各国と良好な関係が築けるというのが基本だ

との小泉発言は、

“日本が米国の属国的存在であれば
中韓はじめ世界各国と良好な関係が築けるというのが基本だ

と英語で訳されブッシュ大統領初め、米国人に伝わったのではないでしょうか?!

 

 更に抜粋を続けさせて頂きます。

 

 いまからちょうど十年前、一九九五年十一月に米国政府から日本政府へ提示された『年次改革要望書』のなかに、郵政三事業のひとつ簡易保険に関して次のような記述がある。

《米国政府は、日本政府が以下のような規制緩和及び競争促進のための措置をとるべきであると信じる。┈┈┈┈郵政省のような政府機関が、民間保険会社と直接競合する保険業務に携わることを禁止する。》

 それ以来、米国政府は簡易保険の廃止を日本に要求し続けてきた。

・・・

米国にとって民営化はゴールではなく、簡保を弱体化させ、分割、解体、経営破綻に追い込み、MAや営業譲渡などさまざまな手段を弄して、簡保が擁している一二〇兆円にのぼる資産を米国系民間保険会社に吸収させることが最終的な狙いなのである。

 簡保は小口であることと、無審査という簡易な加入手続きを特色としている。もともと簡易生命保険制度は、民間の生命保険に加入できない低所得者にも保険というセーフティネットを提供することを目的として大正五年に創設されたもので、ビジネスと言うよりは日本社会の安定化装置なのである。それが米国人の目には単なる市場としてしか映らない.

安定化装置をはずした後に日本社会がどうなろうと一切関心がない。

 

 更に、関岡氏は、恐ろしい話を続けます。

 

 米国が日本に解禁を求める混合診療とは、保険が利く「保険診療」と、保険が利かない、つまり厚生労働省が認めていない「保険外珍療」(自由診療とも言う)を同一の患者に行うことである。現在は認められていないため、日本で未承認の薬などを使うと、本来保険が利く珍察代や入院費などにも保険が適用されず、かかった費用全額が自己負担になってしまう。しかし混合珍療が解禁されると、厚生労働省が認めていない部分のみは自己負担だが、診察代や入院費など通常の経費は保険でカバーされるため、日本で未承認の新薬や治療法をより利用しやすくなる。患者にとってはけっこうな話に聞こえる。

・・

 そこで、混合診療が解禁されると、民間保険会社にとって自由診療向け医療保険という、新たなビジネス・チャンスが発生するのである。つまり、公的医療保険がカバーしない領域が拡大するということは、民間保険会社にとっては新たな市場の創出にほかならないのだ。

・・

 民間保険会社の保険料は、もちろん市場原理が貫徹される。例えば大企業の社員は、会社が一括して保険会社と契約するので、大口顧客として保険会社に値引き圧力をかけることができるため保険料が割安となり、低負担で「世界最先端」の医療を受けられる。

一方、保険会社は大口契約で削られたマージンを小口契約で補填しょうとするため、自営業者、退職者など個人で保険に入ろうとする人などには割高な保険料を請求する。その結果、所得の低い人ほど保険料が重くなるという負担の逆進性が常態化している。「小さな政府」で個人の自己負担が小さくなるわけではなく、むしろ逆なのである。

 

 以上の関岡氏の警告に加えて、次に西尾正道氏(北海道がんセンター統括診療部長)の記述も抜粋させて頂きます。

(週刊金曜日2005.11.11号)

 

オリックスグループのCEOである宮内義彦氏は「規制改革・民間開放推進会議」の議長を務め、混合診療の推進派であるが、「国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、『健康保険はここまでですよ』、後は『自分でお払いください』というかたちです。金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」(『週刊東洋経済』 二〇〇二年一月二六日号)と説明している。

 

 小泉氏は今回の選挙を、「郵政民営化の是非を問う選挙」と銘打って、又、専ら、郵便局員の既成権益を非難する事で大勝しました。

しかし、今回の「郵政民営化」の争点は、郵便事業の民営化(特に過疎地への配達)に集中して、「簡保」が民営化の後どうなるかは殆ど問題視されませんでした。

確か、荒井広幸議員がこの点を指摘していたくらいです。

(しかし、いま、荒井氏のホームページを訪ねても、「郵政民営化問題」は、不思議な事に記述されていません。)

弱者にとって最も重要な「簡保問題」は全く無視されていたのです。

そして、「郵政民営化」に次ぐ、弱者いじめの「混合診療問題」は、選挙の争点として、全く提示されませんでした。

 

 このように変わりゆく日本は、強者だけが生き残り、弱者は消え去るのみとなってしまいます。

(小泉首相の提灯持ち(?)の田原総一朗氏は、「弱者に優しい世界」を「社会主義的」と揶揄していたように記憶しています。

でも、この記憶も確かではありません。あまり嫌な事が多いので、それらを次から次へと忘れてしまうものですから!)

 

 なんだか、これからの日本は、コンピューターゲームに登場する世界になりそうです。

 

 そして、こんな日本を愛せ!と宣う方が大勢おられるのです!

そして、弱者となってしまった方々を「自衛軍」なる殺人集団に押し込め「強者のみが繁栄する国」の防衛にあたらせようとしているのです。

なのに、何故、日本人はこのような政権を支持し喝采するのでしょうか?!

私は不思議でたまりません!

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